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いつか空で逢えることを夢見て
神戸で生まれ育ち、中学生の時に同級生と一緒に始めた市民無線。 合法とはいえ、500ミリWのパワーでは話せる距離も短かかったが夏休みには単一電池を8本も詰め込んで自転車で淡路島一周もした。
中学2年生になると電話級アマチュア無線技士の免許を取ろうということになった。 ささやかなお小遣いでは講習会を受けることもできず、JARLの教本だけを買って授業中に勉強した。
本来の学業と違って意志を持って勉強するのだから身の入り方が違う。
教科書を二重にして先生には分からないようにした。
でもいつかは見つかるものだ。
いきなり名前を呼ばれ授業の内容を質問された。 あわてふためく私にそっと横から答えを教えてくれる女の子がいた。
もちろん先生にはお見通しで授業後に叱られた。
席に戻ると、
『 いつも何の本を見ているの? 』
と彼女に尋ねられた。
アマチュア無線という趣味のために資格を取ろうとしていること。
(当時は)年に2回しか試験がなく、試験の日まで余裕がないこと。
そして、合格したら自宅に居ながら知らない人と自由に話ができる楽しさを。
成績がそんなに良くない私が必死になっている姿を見て、そんな彼女もアマチュア無線というものに興味を持ったようだった。
甲斐あって合格できた。友達も家族も喜んでくれた。
でも、一番報告したかったのは彼女だった。
喜んでくれた。満面の笑みで。
『 合格したのなら教科書譲ってくれない? 』
思いもよらない彼女の言葉で驚いた。
それからというもの、放課後には自分自身も復習のつもりで一緒に勉強した。
学年でも愛嬌のある子で男子に人気があり、冷やかされもした。
毎日の放課後が待ち遠しくて、今からすると一番楽しかった時間だった。
月日がたち、受験の申し込みも終えて教科書とにらめっこする時間も増えた。
だが、急に彼女の父親の転勤が決まり大阪での受験は絶望となった。
そして学年半ばで転校が決まり、空で逢えることを夢見ていた希望はついえた。
転校する前日の放課後、二人して夏空を見ていたら
『 私、絶対に合格するからね 』
とびっきりの笑顔で彼女は言った。
でも、窓の外を眺めるその後ろ姿は寂しげに見えた。
次の日から、隣の彼女の席は空いたままになった。
お互いに月日が流れて歳を重ねても、いつかこの空で逢えるのでは・・・
今でもあの日の青い空を想い出すたびに、淡い夢を持って声を出しています。
面 影

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